スポーツや武術において「心技体」という言葉を聞いたことがある方も多くいらっしゃると思います。
モダンバレエやコンテンポラリーダンスにおいてもこの「心技体」の考えはとても重要です。
良いパフォーマンスのためには「心」の安定が不可欠
コンクールや本番の前にとても緊張していて身体が強張る。
間違えてしまったらどうしよう、不安なことばかりが頭をよぎる。
私にもこんな経験がたくさんありました。でも決まってこんな時は上手く踊れません。
心が縮まると身体も縮まってしまうからです。
不安や緊張はプラスにもマイナスにも作用しますが度を過ぎた緊張はパフォーマンスアップには繋がりません。
パフォーマンスを向上させるには同時に「心」を鍛えるスキルも必要になってきます。
今自分はどんなことを考えていて、何を不安に思っているのかなど自己の心身と向き合うことはとても大切です。
またダンスは1人だけで踊る場合もあれば複数人で踊る群舞の場合もあるため全体での雰囲気作りは重要になってきます。
そんな時友だち同士で共に心の解放ができていれば、心地よい安心感に繋がり良いパフォーマンスができるのではないでしょうか。
互いの感性を知り、受け入れ、解放していくことで良いチームとなる
モダンバレエ やコンテンポラリーダンスも複数人で踊る群舞というものがあります。
いわば一つの「チーム」となり一つの作品を成功させるために一緒に努力していきます。
自分だけが上手く踊れればいい、自分だけが目立てればい良いという考えは群舞ではあまり良くはありません。
互いにバランスを図り呼吸を合わせて表現していくことがとても大切になります。
先日こんなワークが生まれました。
足と足の間に柔らかいバランスボールを挟み、複数人の生徒でスタジオ内を歩き回ります。
歩く場所は自由です。
最初は単に脚の内転筋を鍛えるためのワークだったのですが、1人の生徒が脚に挟んだボールをわざとボトッと落として面白いポーズをしました。
その瞬間、その生徒も他の生徒も大笑い。
私も思わず笑ってしまいました。その子はいつもそんな風に場を盛り上げてくれるのです。
そのボトッと落ちる感覚が小学生には楽しかったようで、他の子も真似して落とします。
全員がボトッとボールを落とす瞬間は客観的にみてもまるで木から実がドッと落ちてきたかのようで私も面白かったです。
そして
お!これは即興の良いワークになるかも!と急に思いついてしまったのでこんな提案をしてみました。
「じゃあボトッと落とした人は好きなポーズ、面白いポーズをしてみてね。
他の人はその落とした人のポーズを真似をしてみよう!誰がいつ落とすかは自由だよ。何度落としてもいいよ。」
落とす人はどんなポーズでもOKです。
「正解はないからどんなポーズでもいいからね」と伝えます。
即興ワークの時は大抵のお子さんが最初は「恥ずかしい」と思ってしまうので講師がどんな姿でも見守っているよ〜という温かい声かけや姿勢が重要になってくると思っています。
音楽はボールが落ちる度に一時停止してみました。
音楽が一時停止すると不思議と子どもたちの動きも止まります。
感覚としては達磨さんが転んだ、や椅子取りゲームのようなスリルもあり、ゲームのコツを掴んだ子どもたちは大はしゃぎでした。
何回かこのワークを続けたところ、いつもは絶対にボールを落とさないAちゃんがある日ボトっとボールを落として、とんでもなく面白いポーズをとってくれました。
「恥ずかしい」を抜け出せて、自己の解放ができた瞬間でした。
本人も嬉しく気持ちが良かったのかその後何度もボールを落とし、「あのゲームやろうよ〜」と自分から声をかけてくれるようになりました。
このように自己の解放は、本人も気持ちの良いことである上に、他者への理解にも繋がります。
結果として振付を忠実に踊る際にも「チーム」となり良いパフォーマンスができるのではないでしょうか。
このワークに私自身たくさんのことを学ばせてもらいました。
最初にボールを落としてポーズしてくれた子に感謝です!
外見への意識は大切だが自由な動きを生み出せるかどうかも大切
学生時代「離見の見」という言葉を教わりました。
能役者の世阿弥の言葉で、演者自身が客席から自分がどう見えているかを客観的に考えながら演じるということです。
この言葉は作者からもらった振付を忠実に踊っていくという際にとても大切な視点だと思います。
この視点を大切にしながら、同時にバランスよく鍛えていきたいのが自由な動きを生み出せるかどうかの即興力と創造力です。
上に記したようなワークは始めは「何が起こるか分からない」という恐怖や不安も当然ありますが、一度自己を解放できれば安心感と自信に繋がります。
お互いの感性を刺激し合うことは、とても勇気のいることですが、鍛えられた感性はダンスだけでなく学習やスポーツなど他の場面でも生かされるはずです。
その瞬間は言葉にはならない心が躍る気持ち良さがあり、子ども時代に体験しておくことはとても大切なことだと考えております。
これからもこのようなワークを多く取り入れることで、子どもたちが良いパフォーマンスができる環境を作っていきたいと思います。